HeartLands (Ong Kim Seng の水彩画の世界)
2008年 12月 04日
シンガポールの水彩画アーティスト、Ong Kim Seng (1945~)の
展覧会には、「HeartLands」というタイトルがつけられています。
「HeartLands」とは、
多くのシンガポーリアンが住んでいる、マーケットや商店に取り囲まれた
HDBの建つシンガポール中流地帯の中心核を指しているのですが、
オン・キム・セン自身、30年以上HDB(公団住宅)にアトリエを構えて
創作活動を続けています。
そんなアーティストにとって身近な、心安らぐ場所が
今回の展覧会のテーマになっているのです。
イギリス人の水彩画家、リチャード・ウォーカーが
1930年代にシンガポールに水彩画の技術を伝えたと言われています。
リチャード・ウォーカーに水彩画の手ほどきを受けた
Lim Cheng Hoe や Chen Wen Hsi などは
シンガポールのパイオニア的なアーティストと言われています。
Lim Cheng Hoeの作品。
リム・チェン・ホーは、
生涯、日曜画家でした。
Chen Wen Hsi の絵は身近に見ることが出来ます。
S$50 の後ろ側に描かれた「Gibbons」。
手長猿の絵は、彼の作品であります。
Chen Wen Hsi は実際にこの猿を飼っていたようです。。
こちらは、
お札の図柄と違いますが、
Chen Wen Hsi の猿シリーズです。
猿の絵の奥に描かれた絵は、
Cheong Soo Pieng の「Dry The Salted Fish」。
cheong Soo Pieng もシンガポール近代アートのパイオニアの一人です。
さて、今現在のシンガポール美術館の外観は
ちょっとHDBチックに装飾(?)されています。
1本竿に洗濯物を吊るした光景は
シンガポールの風物詩と
いえるかと思います。。
洋服は、オン氏所有物とか。。。
先日雨でびしょびしょに濡れていました。。。。
彼の作品にも登場します。。
今回の展覧会では、オン・キム・センの初期の作品から
最近の作品まで、35点が展示してありました。
初期の作品は、彼が幼い頃から大人になるまで住んでいた
「Attap」住宅(シュロ葺き屋根の粗末な家)をモデルに描かれた小品が多いです。
およそ3時間ほどで仕上げるのだそうです。
一方
最近の作品は、近代的な建物をモデルにした大型の作品が多いのですが、
それでも5時間位で仕上げてしまうのだそうです。。。
ただの風景画でないところが、彼の作品の面白いところです。
この建物は、オン氏が「Heart lands」と呼んでいる、
現在のMRTレッド・ヒル周辺のもので、
良く見ると、建物の壁に淡いグレーで、昔の様子が描かれているのです!!
その昔、この辺りで大火事があり、沢山の「Attap」住宅が焼け
多くの市民が焼け出されたのだそうです。
そんな災害もあって、シンガポールのHDB建設には、拍車がかかったのだとか。。
淡いグレーで、その火事の記憶が描かれているのだそうです。
オン氏は、展覧会の間、度々美術館を訪れていました。。
チェックのシャツがトレードマーク!?(いつもチェックでした。。)
ある土曜日の午後。。。
自ら作品解説をしていました。。
大勢のシンガポーリアンで賑わっていて
オン氏の人気ぶりが伺えました。
ローカルの新聞でも展覧会の様子が大きく取り上げられていました。。。
オン氏は、独学で絵の技術を学びました。
家が貧しかったので、お金のかかる美術学校に通えなかったのだそうです。
けれども、なんとしても絵筆で生計を立てたいと頑張って、
現在に至ったのだとか。
初期の頃には、油絵も描いていたようなのですが、
ある時、バスに乗っていたら、隣に座った女性の洋服を
油絵の具で汚してしまって、こっぴどく怒られた経験から、
乾きの良い水彩画しか描かないと決めたのだ、、という
本当か嘘かわからないようなエピソードを披露していました。。。(笑)
気軽に写真撮影に
応じてくださいました。
そして、「1枚15㌦はするかな。。。」という冗談を言いながら
名刺をくださいました。。。
展示会場には、柔らかな光が溢れていたかと思います。
ご苦労なさったのだろうけれども、今現在は、
自分の描きたい物と、人々が求めているものが
上手く噛み合った、幸せなアーティストなのではないかと思います。。